ロコココラム第2回 36歳で天に召された天才画家ヴァトーが描く『ハレンチだけじゃない』終わりを感じる刹那とはかなさの風俗画。

ロコココラム第2回 36歳で天に召された天才画家ヴァトーが描く『ハレンチだけじゃない』終わりを感じる刹那とはかなさの風俗画。

ロコココラム第2回は画家アントワーヌ・ヴァトーにスポットを当ててお届けします。8月1日から横浜美術館で始まったマリーアントワネット・スタイル展。ロンロンでお買い物する方の中にも訪れるかたいらっしゃるのではないでしょうか?私も、鑑賞する予定ですのでその時のリポートはここで書こうかと思います。


さて、第1回目のコラムでは「ロココ」文化がどのような過程で生まれてどのような人物によって主導されていったかなどをざっくりと書いてゆきました。今回はロココ文化の中でも画家として特に注目を浴びた人物について進めて行きます。


18世紀フランス画壇の『絵画格付けランキング』

「絵画のヒエラルキー」

今を生きる我々には考えられないことですが、18世紀フランスでは絵画にランク付けがされていました。


・第1位:歴史画・神話画(神様や英雄伝説を描いた作品。神様なのでぶっちぎりの1位です。)

・第2位:肖像画(権威の誇示。王様、貴族の顔写真ですね。)

・第3位:風俗画(今回のコラムの主役ヴァトーの作品はこの位置です!)

・第4位:風景画(もちろん自然や街の風景。当時は格下扱いです。)

・第5位:静物画(果物、器など動かないもの。最下層)


このようなヒエラルキーがあったのです。当初の絵画の使われ方、つまり宗教を皆に伝えるという点で考えれば、1位は18世紀になっても不動なのはわかります。また言い方を変えれば1,2位は権威ですよね。


天才の登場

神や王の「権威」が絶対だったカースト制度の中に、彗星のごとく現れたのが、今回の主役ジャン=アントワーヌ・ヴァトー(1684~1721)です。

彼は、カースト1位の「神様」でも、2位の「格の高い貴族の顔写真」でもなく、3位の「風俗画」を極めることで、当時の美術界の常識をひっくり返してしまいました。

ヴァトーが描いたのは、当時の上流階級の若者たちが美しい庭園で恋の駆け引きや贅沢なピクニックを楽しむ、当時としては最高におしゃれな日常の風景。

これがあまりにも素晴らしい才能だったため、お堅い芸術アカデミー(国の機関ですね)は、ヴァトーのためにわざわざ「雅宴画(がえんが、フェート・ギャラント)」という新しい格付けジャンルを作って、彼を最高位のメンバーとして迎え入れたのです。

《シテール島への巡礼》1717年、ヴァトーといえばこの作品。右端に描かれている愛の女神ヴィーナス。この島を訪れると良いパートナーに巡り合えるという伝説がありました。ちなみにシテール島は地中海の島。自然の中で行われるささやかな楽しみは貴族たちのあいだで流行したといわれています。当初、この絵の解釈は「シテール島への船出(絵の題名も同じでした)」という解釈でしたが、後の研究でシテール島から岐路に着こうとして名残惜しそうにしている場面を描いていると変わっています。


現代のインスタ!雅宴画は貴族の理想郷。

雅宴画が広まったわけ

ルイ14世時代の末期、王は病に伏せ自室にこもり切りでした。そのころパリの街中に「サロン」と呼ばれるいろんな人(主に貴族やブルジョワジー)の集まる「場」がたくさんありました。そこでヴァトーの絵がとても良い!と人気に火が付いたのです。

ジャン=アントワーヌ・ヴァトー《ジェルサンの看板》(1720年) パリの画廊(サロン)の様子を描いた作品。左端には旧時代のルイ14世の肖像画が箱に片付けられ、右側では新しい時代の絵画を買い求める人々が描かれています。まさに宮廷から街のサロンへとトレンドが移った瞬間です。

ヴァトーは、国の芸術アカデミーへ出品。ここでさっきの絵画のヒエラルキーを思い出してください。彼は天才的な画家。しかし作品は、「う~んこれ風俗画だな・・・ちょっとゆるい感じだし。。。ただ、貴族やお金持ちには大人気らしい。無視したら後が大変だな。。。よし、雅宴画という分野を風俗画の中に作ってヴァトーをそのトップにしてしまえ」と、実際にこのような問答があったかわかりませんが、こんな感じで雅宴画は国にも認められる絵画となったのです。

 

つまり何が言いたいかというと、ルイ14世時代の堅苦しい宮廷文化は王の末期には貴族たちは宮殿から街に出て集り自分たちのセンスを、承認欲求を満たす絵画を注文。

もちろん、それは理想や希望を描いた絵であって、歴史画と違い自分たちの風俗を表す絵画。

その絵画はパリの街中にあるサロンに集まった貴族やブルジョワジーによって育まれました。人間味のある絵が広まる中、ヴァトーは病いで36歳でこの世を去りました。


宮廷の外から宮廷の中へ

風俗画として新しい分野を切り開いたヴァトーの仕事は、今度はルイ15世の愛人ポンパドール婦人(前回のコラムで画像を掲載)の手によって、宮廷の中のサロン文化として見事に開花していったというわけです。

ポンパドール婦人は、宮廷の自室に知識人などさまざまな文化人を招きお茶会を開き、女性が主導する華やかなロココ文化を花開かせたのです。色、生地、文様、ドレスなどさまざまなものが。このポンパドール婦人のサロンで生まれました。まさにこの時代のインフルエンサーです。

不思議なことに、ヴァトーが亡くなったのが1721年。ポンパドール婦人の生まれたのは1721年。同じ年なんですね。まるでヴァトーからのバトンをポンパドール夫人が受け継いだかのように。


いかがでしたか?

宮廷の外のサロン文化で注目されたヴァトーの作品が国に認められ、そしてロココの中心人物ポンパドール婦人の宮廷内サロンへとつながる。パリの街中から宮廷への逆輸入。

一見すると、ヴァトーの作品は、当時とすればちょっとハレンチで恋に浮かれた遊び絵のようですが、その裏には『いつか終わってしまう一瞬の輝き』が刻まれていました。

私はここにロココのはかなさ、刹那を感じてしまいます、もちろん王朝がなくなる歴史を知っているからですが・・・


次回は、横浜美術館で開催の「マリー・アントワネット・スタイル」展のリポートを交えながら進めていきます。



参考資料

・「西洋絵画の歴史2」高橋裕子著、株式会社小学館

・「西洋美術史」高階秀爾監修 美術出版社

・「ヨーロッパの装飾と文様」海野弘著 株式会社パイインターナショナル



執筆者

アオキマサシ

美術検定1級アートナビゲーター

昔、大阪と名古屋でラジオ局のディレクターを長いことやってました。

あいちトリエンナーレ2013メンバーでした。

書くことが好きです。

https://flat-artlabo.com/ 

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