ロコココラム第1回 権威のバロックから楽園のロココへ

ロコココラム第1回  権威のバロックから楽園のロココへ

「8月のアントワネット展へ向けて」

8月1日から横浜美術館にて開催されるマリー・アントワネット・スタイル展。ロンドン発、海外を巡回し日本国内では横浜のみの開催となっています。

きっと多くの人が「華やかでお洒落な王妃」の姿を期待して足を運ぶでしょう。もちろん私も興味がありますから見に行きその様子もこのコラムで報告するつもりです。

みなさんは、マリー・アントワネットという人物にどのようなイメージを持っていますか?「ベルサイユのばら」という方もおられるでしょうし、美術文化的な側面では「ロココ」という言葉が浮かんでくるのではないでしょうか?

このコラムでは数回にわたって、彼女の愛した「ロココ」という文化がどのように生まれたのか、またアントワネットの周りにはどのような人物が存在したのか?「ロココ」という言葉のフィルターを通して、アントワネットの生きた時代に目を向けていきます。


まずは、「ロココ」がなぜ生まれたのか?

ひとことで言ってしまえば、それまでの重苦しい時代に対する「強烈な反発」から生まれたと言えます。これだけ知っていても、今、みなさんが装うファッションに対する考え方にも変化があるかもしれません。

もちろん横浜美術館へ足を運ぶ方にとっては、展覧会の捉え方にも影響があることは間違いないと思います。

ではここからは、その歴史の幕開けを覗いてみましょう。


「バロックの重圧:すべては神と国王のために」


今回の連続コラムでは、バロックとロココに触れていきます。バロックって聞いたことありますか?語源は、ポルトガル語の「バロッコ」意味は「ゆがんだ真珠」。

ルネサンスの調和のとれた美術、建築と比べて、不調和、劇的な演出性などへの否定的な意味でつけられました。

劇的な演出性。それは宗教・王政の権威を示すためのものです。

ロココの直前、17世紀、バロック時代の画家巨匠ルーベンスはその代表格です。(フランダースの犬の最終回でネロがルーベンスの絵を観て天使とともに・・・ですね)。

<<ピーテル・パウス・ルーベンス作 マリー・ド・メディシスのマルセイユ上陸>>

この絵は、イタリアのメディチ家からフランスの王家に嫁ぐマリー・ド・メディシスがフランスに到着したときの様子を描いた作品。主人公のマリー・ド・メディシスの周りを神話に登場する神々、天使が祝福しています。

簡単に言うと、神々が祝福するほどフランス王室に嫁ぐ女性は素晴らしいのだと、いわゆる権威の誇示ですね。

このように彼の描く絵画は、圧倒的なダイナミズムとむせ返るような肉体美、そして大げさな演出に満ちています。

ベルサイユ宮殿に代表されるこの時代は、「神の栄光」や「絶対王政の偉大さ」を示すための、息の詰まるほどお堅いルールに支配されていました。(ちなみに同時代のオランダではレンブラントやフェルメールが市民のリアルを描いていましたが、フランス宮廷はあくまで重厚で堅苦しい世界)


「太陽王の崩御と「ロカイユ」の誕生」

風向きが変わったのは1715年。絶対君主ルイ14世(太陽王、先ほど登場したマリー・ド・メディシスが祖母にあたります)が亡くなると、抑圧されていた貴族たちは、堅苦しいベルサイユ宮殿を飛び出して、パリの私邸へと移りました。

そこで生まれたのが、窮屈な直線を排し、庭園の人工洞窟(グロッタ)を飾る貝殻細工のような非対称の曲線を取り入れたインテリア・・・これこそがロココの語源となった「ロカイユ」です。

18世紀は「巨大で重重しいもの」から「軽やかで心地よいもの」へとシフトしました。美術史では、よく言われることですが、バロックは男性的な文化、これに対してロココは女性が主導する宮廷文化ということです。

「プロデューサーの介在と、ハレンチ!?な楽園」

この新しい「軽やかな文化」を政治・芸術の両面で完璧にプロデュースしたのが、ルイ15世の愛妾(あいしょう)ポンパドール夫人。

彼女のサロンを中心に、文化の主役は「男性的・政治的」なものから「女性的・プライベート」なものへと塗り替えられていきました。

<<フランソワ・ブーシェ作 ポンパドール婦人>>

まず、ファッションにも大きな変化がありました。素材です。バロックの時代には、固い布地で作られたものが多かったのですが、ロココの時代には繊細で柔らかい印象のドレスが好まれるようになります。色合いもパステル・中間色などへとシフト。

また、絵画の主題も宗教的・権威的なものから、よりプライベートな内容の注文へと変わっていった時代でもあります。

 その極みが、画家フラゴナールに代表される世界です。バロックで語られた神話や戦争といった「大義名分」から一気に離れ、描かれたのは『ぶらんこ』に代表されるような「人目を盗んだ不倫の快楽」や「風俗画」。そう、ロココとは、お堅いバロックの呪縛を捨てた貴族たちの最高にハレンチ!?で優雅な楽園という一面も持ち合わせていました。


<<ジャン=オノレ・フラゴナール作 ぶらんこ>>

これは若い娘さんにうつつを抜かした貴族が、娘さんをブランコに乗せている場面を描いている作品。娘さんの靴は飛んで行き、広がったスカートの中を貴族が眺める。。。左上天使の石像はそれを眺めているというハレンチでシュールな一枚です。このようにロココ時代はプライベートな絵画作品が多くなったのも特徴のひとつです。これは宮殿には飾れないですよね・・・今は美術館で飾られていますが。。。


「次回へ向けて」


みなさんもよくご存じのとおり、現代の日本が世界に誇る「ロリータ・ファッション」の源流は、このロココ文化にもあると言われています。

バロック文化の堅苦しさから解放されるように花開いた「ロココ」は、現代にも通ずる「究極のかわいい文化」の到来でもありました。

そして、その時代に呼応するようにオーストリアのハプスブルグ家から一人の女性がフランス・ブルボン王朝へ嫁いできます。

彼女の名は、マリー=アントワネット=ジョゼフ=ジャンヌ・ド・アブスブール=ロレーヌ 。(フランス語読み)

次回、画家ヴァトーの描いたロココの「真実の切なさ」とともに、彼女の物語へと進めようと思います。



*参考資料

・「西洋絵画の歴史2」高橋裕子著、株式会社小学館

・「西洋美術史」高階秀爾監修 美術出版社

・「ヨーロッパの装飾と文様」海野弘著 株式会社パイインターナショナル



執筆者

青木 雅司

美術検定1級アートナビゲーター

昔、大阪と名古屋でラジオ局のディレクターを長いことやってました。

あいちトリエンナーレ2013メンバーでした。

書くことが好きです。

https://flat-artlabo.com/ 

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