ゴシックコラム連載第1回:ゴシックの魂 ―― 光と闇の「アートの集大成」

ゴシックコラム連載第1回:ゴシックの魂 ―― 光と闇の「アートの集大成」

【ゴスロリの「ゴス」とは何か?】 


このサイトを訪れる方は、もちろんロリータファッションに身を包む方、興味を持っていてこれから着てみようかな?と思っていらっしゃるかたがほとんどでしょう。

ご存じのようにロリータファッションにもいろいろなカテゴリーがありますが、そのなかでも個性という面で突出しているのが「ゴスロリ」ではないでしょうか?

その「ゴスロリ」のゴスとは、「ゴシック(Gothic)」のこと。では「ゴシックとは?」 そう聞かれて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。 「黒いドレス」というイメージを思い浮かべる方が多いかもしれません。

では、ゴスロリ好きの皆さんが身に纏うこのスタイルに冠された「Goth=Gothic」とは、一体どういったことなのでしょうか?

このコラムでは、その根本的な事柄をベースに、中世から現代まで、形を変えながら生き続けてきた「ゴシック」の歴史文化を、数回に渡って深く考察していきたいと思います。


 

【大聖堂:街の誇りと「司教の椅子」】


ここで一つ定義づけをしておきます。このコラムの中ではおよそ5世紀ごろから14世紀ごろまで(ルネサンスの前まで)の1000年間を中世と呼ぶことにします。というのも中世の時代区分については現代でも様々な意見があるので、ここでは一応そのような時代定義で進めていきます。

では本題に入ります。

ゴシックを語るには、まず大聖堂という建築に触れねばなりません。大聖堂こそがゴシックの軸なのです。中世の時代、ヨーロッパの多くの場所に大聖堂が建造されました。

大聖堂と言ってどんなイメージを抱かれますか?まず教会ですよね。その次にヨーロッパの大きな教会や暗くて重苦しい雰囲気の教会などが挙げられると思います。

そもそも「大聖堂(カテドラル)」とは、単に大きな教会のことではありません。 語源である「カテドラ」は、ラテン語で「司教の椅子」を意味します。つまり、その地域のキリスト教のトップである「司教」が座る椅子(司教座)が置かれた、特別な聖堂のことなのです。

11世紀ごろまでは、先のイメージでも書きましたとおり「重く暗い聖堂」が主流。重く感じるのは壁が分厚いから、暗く感じるのは窓が小さく少ないからです。

その後12世紀から13世紀にかけて農業・商業の発展により人々は街に集まり始め、ヨーロッパでは都市が急速に発展しました。当時の人々にとって、自分たちの街にどれだけ高く、美しい大聖堂を建てるかは、現代のランドマークを競い合う以上の、まさに「街の威信をかけた大プロジェクト」でした。その資金は様々な商業組合の寄付です。資料によると娼婦組合までもが寄付していたのです。つまり、この壮大な美の建造物は、聖職者だけでなく、その街に生きるすべての人々の熱狂から生まれたものでした。

<その当時建築された代表的な大聖堂フランスのシャルトル大聖堂>(向かって右側の塔は、ゴシック以前の建築法が色濃く残っていて、左側の塔はゴシック最盛期の建築。左右で異なる姿は、数百年にわたる情熱の足跡です)

細かく建物全体に彫刻の施された壮麗な聖堂。

これらは数百年の間にフランスを中心に何百という数が建てられました。その大聖堂をのちのルネサンスの人々は、嫌味な意味を込めて野蛮人(ゴート族)の様式としてゴシックと呼びました。

今となってはその呼び名はただの偏見ということは明らかです。彫刻、絵画、ステンドグラスと芸術のすべてが注ぎこまれた大聖堂は「総合芸術」であり美しさの象徴であったのです。


 

【劇的な変化:なぜ「光の宝石箱」になったのか】 


ここで一つの疑問が湧きます。なぜ、それまでの質素で重厚なスタイル(ロマネスク様式)から、急にこれほどまで壮麗な建築へと変わったのでしょうか?

ロマネスク時代の教会は、いわば「守りの建築」でした。厚い壁で静寂を守り、窓は小さく、内部は薄暗い。しかし、12世紀のフランスで革命的な哲学が生まれます。 「神とは光である。ならば、教会は光で満たされなければならない」(サン・ドニ大聖堂を手がけたシュゼール修道院長のGod is Lightという思想)。

この信念が、すべてを変えました。 建築家たちは重い壁を捨て、細い柱で建物を支える魔法のような技術を編み出し、空いた壁面には宝石のようなステンドグラスをはめ込みました。 文字を読めない多くの人々のために、聖書の物語を「石の彫刻」や「絵画」として壁一面に刻み込んだのです。(ただし、これはちゃんと物語と作品を説明する人がいたようです。)

建物そのものを、神の光を宿す「宝石箱」であり、誰もが圧倒される「立体図録」へと作り変えた。この「どうしても美しく、光り輝く場所を作りたい」という切実な願いこそが、ゴシックの正体ではないでしょうか?

そうゴシックは、美しく輝く宝石箱なのです。

<シャルトル大聖堂の彫刻一部>


<シャルトル大聖堂のステンドグラス一部>

 

【結び:精神の結晶としてのゴシック】


 ゴシック大聖堂。それは建築、彫刻、絵画……その時代のあらゆる知性と情熱を一つの空間に注ぎ込んだ、まさに「アートの集大成」です。

「もっと天高く、もっと光り輝く場所へ」

そんな、人の手に負えないほど巨大な「理想」を、数百年かけて現実のものにしようとした人々の精神の結晶と言えます。 

誰のためでもなく「自分の美学」のために装い、細部のフリル一枚にまで魂を込める。
そのとき、私たちの心の中には、あの大聖堂を建てた職人たちと同じ「ゴシックの火」が灯っているのではないでしょうか。

そして、この巨大な「アートの集大成」を、たった一枚の「紙」と「線」の中に凝縮させてしまった男がいます。

次回は、ゴシックの精神を極限の緻密さで描き出した天才、アルブレヒト・デューラーの世界へ。 なぜ彼の描く「騎士」は、死を恐れず歩み続けることができたのか。その謎に迫ります。

 

*参考資料:図説 大聖堂物語 ゴシック建築と美術 佐藤達生・木俣元一 河出書房
*ゴシックとはなにか 大聖堂の精神史 酒井健 ちくま学芸文庫
 

書いている人

青木 雅司
美術検定1級アートナビゲーター
昔、大阪と名古屋でラジオ局のディレクター長いことやってました。
あいちトリエンナーレ2013メンバーでした。
書くことが好きです。
https://flat-artlabo.com/

 

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